よみがえりの種

Story

池間島で高齢者に島のことを学ぶ中で、私たちの足もとには、実にたくさんの「よみがえりの種」があることを知りました。「よみがえりの種」とは、瀬戸内の周防灘で原発計画が進行する中、多くの生物・生態学者が、瀬戸内の原風景が残されたその海域の希少な生物たちを指して使った言葉です。奇跡的に残されたこの海域を潰してしまえば、瀬戸内海がかつての姿を取り戻す可能性を永遠に奪ってしまうという警句でした。

私たちは、生物種に限らず、地域社会には未来の可能性を宿した「種」がたくさん眠っていると考えました。それは、在来作物や樹木、海産資源などの自然からの恵みだけでなく、祭祀や年中行事、歌謡、言葉、様々な生活文化、高齢者の知恵や経験そのものも含まれます。島の80〜90代のオジイ・オバアたちにお話を聞いていく中から、これらをていねいに拾いあつめ、蒔いて育ててみようという取り組みをしてきました。

上段はササゲの一種で「っふまみ(黒アズキ)」と「あかまみ(赤アズキ?)」
下段は池間島の「6月まみ(旧暦6月に収穫の黒アズキ。8月まみもある)」と「うつまみ(下大豆)」

まず注目したのは、「うつまみ」と呼ばれる在来品種の大豆の復活でした。池間島ではおそらく琉球王府時代から作られてきたというこの大豆、味噌や豆腐はこの豆で作られ、とても美味しかったというお話を聞きます。とても小さな豆で脱穀に手間がかかるので、戦後に「高アンダー」「低アンダー」といった大豆が導入され、次第に作られなくなっていったようです。

うつまみの枝豆。立春のころに種を蒔き、収穫は11月〜12月。地を這うようにツルが伸びていくで台風にも強いのだとか

現在は豆としてはほとんど栽培されていませんが、緑肥としてキビ畑の地力回復に使っていた宮古島の農家さんから種を分けていただき、2014年から池間島での栽培を再開させました。まだ思うような収量は採れていませんが、何かの形になったらいいな・・・と思いながら毎年栽培にチャレンジしています。

うつまみの脱穀に使うのが「マミッタツバウ(豆叩き棒)」と呼ばれる道具で、なんと!テリハボクの木から作られています。

もう一つ、私たちが大きく着目したのが「アダン」でした。池間島でアダンは、人々の暮らしに欠かせない植物No.1といってもいいほど、様々に利用されてきました。幹は建材に、気根からとれる繊維は頑丈なロープや海用のぞうりや網袋に、葉は焚き物に、実は子どもたちのおやつや燻製用のまきに、、、という具合に。さらに、防風防潮林として島の周囲に植樹されてきた歴史もあり、池間島には「アダンニー」という地名もあります。また、アダンの林はオカヤドカリやヤシガニ、オカガニなどの生き物たちのすみかにもなっています。

アダン料理を作るための実を収穫しているところ。昔の子どもたちは、どこの木に美味しいアダンがなるかを知っていたのだそうです。

島の自然と暮らしを見つめ直すひとつの手がかりとして、このアダンに着目し、実際に食べたり、道具を作ったり、薪にしてみたり、植えたり、といった活動を島の先輩方と子どもたちと一緒に行ってきました。少ない資源をうまく利用した知恵と技術、自分たちは何によって生かされてきたのか、という原点に立ち返ってみると、いつもアダンがあったのです。

「アダナス」と呼ばれるアダンの気根から繊維をとって縄をなう練習をしています。オバアたちを先生にして習いました。

自分たちの足下を見据えた環境保全や地域づくり活動を行っている他の島々でも、同じようにアダンに注目している方々が多いことがわかってきて、それらを持ち寄ってアダン文化について考える機会を持ちたいと、2017年に「琉球弧アダンサミット」を開催しました。このサミットには、沖縄本島、宮古・八重山、そして日本全国から関心を持ってくださった方が集まり、アダンづくしの2日間を過ごしました。

アダンも含めて、島の「在来樹木」の種を集め、苗木を生産して販売したり、島内に植樹して防風林を再生する取り組みを事業化できないかと模索していた時期もありました。アダンやフクギ、ビロウ(クバ)、クロヨナ、イヌマキ(キャーギ)、ブッソウゲ(アカバナ)などなど、たくさんの苗ポットを作り、高齢者のお宅の庭先でお世話をしてもらえるような仕組みを考えていました。

ヤラブの種を集めて苗ポットを作っているところ

たくさん作った苗木は、民泊などで来島する方々に購入していただき、記念植樹をしてもらえるようになりました。島の行事として、島民みんなで植樹をしよう、という機会も増えてきています。このような取り組みの中から、テリハボク(ヤラブ)の種の持つ可能性に出会い、タマヌオイル作りへと繋がっていきます。

池間島に来島してくださった方に記念植樹をしていただいているところ。クバやヤラブ、アカバナなどを植えていただきました。

「よみがえりの種」は無数にあります。これらをていねいに蒔いて、育てていくことができるかで、島の未来が大きく変わっていくと思っています。最近は島の中学生たちと授業の中で新しい種を探しています。