私たちは、2012年から、沖縄・宮古島の北に位置する池間島で高齢者福祉事業を行っているNPO法人(いけま福祉支援センター)にて、地域福祉の観点から、高齢者を核とする民泊事業をはじめ、様々な地域づくりの仕事に取り組んできました。地域づくりとは、地域に眠っている、あるいは消えかけている技術や知識、資源を見える形にデザインする仕事です。足もとを丁寧に丁寧に掘っていると、小さな泉が湧いてきました。人々の生きる知恵や技術(島の言葉で「アマイ・ウムクトゥ」)です。それは単に記録して残せば良いものではなく、暮らしの中に埋め戻し、再生する仕組みづくりが必要だと考えました。
具体的には、80代以上の漁師から習った魚の方言名約300種類で構成した島のためカレンダー制作(2014年から毎年発行し、この売上で2017年には島の奨学金制度を創設しています)、約半世紀途絶えていた8月15夜の祭りの復活、王府時代から作られてきた大豆(ウツマミ)の復活、味噌づくりや野草、古いアーグ(古謡)等を高齢者から子どもたちへ継承していく「シマ学校」の企画・運営。全戸配布の島新聞(すまだてぃ便り)の発行、島の主立った組織の情報共有・共通の課題解決へむけた組織「島おこしの会」の運営、2017の夏には、宮古諸島の生物文化を象徴する「アダン」に注目し、その手業や食文化、民俗・歴史・博物学的な視点から情報を共有する「琉球弧アダンサミット」の開催などをしてきました。
2015年から3年間は、三井物産環境基金の助成を受けて、島の在来樹木の苗木を育て、防風林や畑垣等の再生を目指す(よみがえりの種プロジェクト)を実施してきました。このプロジェクトを契機として、新たなステップへ一歩踏み出すことになりました。
この頃、すでに6年近く地域づくり、島おこしという仕事をさせて頂いているのに、働き世代が島を出ていくことに歯止めをかけることができていないのはなぜかと自問していました。わたしたちのような外部の者はあくまでも裏方で、主人公の島の人間が表に立つ事業を支援することが役割と考えてきたのですが、その姿勢自体が間違いだったと気が付きました。実のところ、なにもリスクを負うことなく傍観する無責任なかかわりだったのかもしれません。いくら待ってもはじまらない。リスクも責任も負ってこその島おこし、と強く反省したのでした。
よみがえりの種プロジェクトで苗作りを行った主な在来種が、ヤラブ(テリハボク)という樹木でした。この種から、 実は上質なオイルが採れ、南太平洋の島々では伝統的な皮膚治療薬として使われていることがわかってきました。タヒチでは「タマヌオイル」と呼ばれています。
池間島においてヤラブは、古くから伝わる豊作祈願の冒頭で「コトス マッタニヌ ヤラブヌナイダギ・・・(今年蒔いた種がヤラブの実のように)」と唄われるように、この島の豊かさや豊穣のシンボ ルでした。強い潮風にも負けないようしっかりと大地に根を張り、島に恵みをもたらしてくれるヤラブの木を、島の人々はとても大切にしてきたのです。過疎化・少子高齢化が進む池間島において、先人たちが大切に育んできたヤラブからタマヌオイルを作り、島の課題解決に貢献できないかと試行錯誤を続けてきました。
島の共有地の椿の実から椿油を生産している佐賀県の加唐島や山口県の国内唯一の圧搾式搾油機の製造メーカー、国産アーモンドオイルの生産をしている鹿児島県の湧水町などを視察し、搾油実験を繰り返していくなかで事業化の見通しが立ってきました。
2018年末、クラウド・ファンディングでキック・オフの資金を募りました。全国のみなさまから目標を超えるご支援をいただき、池間島・宮古島産タマヌオイルを世に出すことができました。翌2019年からは、トヨタ財団の助成を受けて島で高品質のオイルを搾油する環境が整いました。
普段のスキンケアにはもちろん、敏感な肌質の子どもやお母さんが安心して使える高品質なタマヌオイルを製造することで、島の高齢者や就労が困難な人々に種集めや下処理の仕事を作り出し、対価を支払うことができます。同時に、原料のクオリティーを高め、収量を増やしていくためには、島の共有地等にヤラブを育てて新たな里山を作る(海垣の再構築)ことができます。足元にある宝物(未利用資源)から新しい価値を創造する体験は、島の未来を担う若い世代へ希望と新たな可能性を示すことができます。自然と経済と暮らしをヤラブを通じて繋ぎ直す、新しい地域のデザインが見えてきました。
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