2019年度より2年間(60時間)をかけて、池間中学校の総合学習のお手伝いをさせて頂きました。これまでアダンなど島の生活文化を掘り起こすような学習を続けてきましたので、いよいよ島の素材から商品を開発するようなプログラムを提案させて頂きました。
様々な外部講師や都会の提携校の助けを借りつつ、島内の素材調査、商品企画、実験、調査、原料収穫、製造、パッケージデザイン、広報・営業用文章・ポップ作成、営業まで、すべて自分たちで考え、プロジェクトをマネジメントしていきました。生徒たちはこれらの取り組みを、島に仕事を創り出す「I jobプロジェクト」と名付けました。
2020年12月、アダンや月桃など島の植物素材を使用した化粧品が完成しました。行政や民間企業など、非常に多くの方々のご厚意で、宮古島内のホテルや商業施設で営業プレゼンをさせて頂き、下地島空港で実際に観光客へ販売する体験もさせて頂きました。宮古島市長・教育長へも堂々と完成報告を行い、商品は発売3日で完売しました(300本限定販売でした)。
授業の終盤、生徒たちに少し変化が起こったようでした。特に驚かされたのは、市長や観光客など、どんな人の前でも、普段は引っ込み思案の生徒が自らすすんで2年間の取り組みや自分たちの考え、商品や島のことを説明する光景です。新しいものを発想する自由さ、調べる技術、表現する楽しさ、コミュニケーションの喜び、プロジェクトをマネジメントする難しさと達成感、そして自分と自分の足元に広がる可能性、生徒たちが学び取ったものは一つではないと思います。自分の島の持続可能性を掘り起こすこのような体験を授業の中で実現させてくれる池間中学校の教育環境の豊かさは、島の大きな希望です。
生徒たちが創り出した化粧品は、ヴィーナシーといいます。再販の要望も多く寄せられています。学校・生徒たちと相談して今後の展開を考えていきたいと思います。
完成した化粧水は簡易包装とするため、ボトルに紙が巻かれています。その裏面には、このような手紙が添えられています。
拝啓
この化粧品を手にとってくださって、本当にありがとうございます。池間島のことばで御礼を述べます。やぐみ すでぃがふぅ あたい!
私たち中学生は、池間島から若い人々が出て行く事が多いなあと感じています。実際、わたしたちも10年後、この島に住んでいることを想像できません。それは、島に仕事が無いからです。島に仕事をつくればみんな島を出ていかない。どうすればそれができるのだろうか? 2年間、総合学習の時間を使ってこのテーマに取り組み、「I job プロジェクト」と名付けました。Iは池間(Ikema)のI、島(Island)のIです。
まず、私たちはこの島に何があるのか、島中を歩き回って素材探しをしてみました。見つけ出した素材を使った商品の企画会議や調査・実験・試作など試行錯誤するなかで、この化粧品作りにたどり着きました。
原料は、島中いたるところに“あたりまえ”にある植物です。しかしそのあたりまえのものが、とても特別なものだと気がついたのです。海辺で島を守ってきたアダンの実、畑のそばに植えられた月桃の葉とアカバナ(ハイビスカス)の花、“イシャイラズ”として昔から使われてきたアロエベラ、どれも池間島で収穫した素材です。サメ採り名人の漁師が多い池間島なので、鮫の肝油から作られるスクワランも加えています。
わたしたちは、この化粧水に、美の女神「Venus」と大好きな池間島の海の「Sea」をあわせて「Venusea」(ヴィーナシー)と名付けました。
小さな一歩ですが、島にはこれだけの可能性があって、自分たちが島に暮らしていくための仕事だって自分たちで造れることの証明になると思います。わたしたちの挑戦、今後ともどうか応援をお願いします。
沖縄も寒い季節がやってきます。この化粧水が少しでもお役にたてることを心から願っています。
敬具2020年10月吉日
池間中学生一同